Respawn Entertainmentの『Apex Legends(エーペックスレジェンズ)』競技シーンでは、世界でALGSのイヤー3が進行中。バトロワにはサークルの収縮システムがありますが、このデータを公式戦で活用することをめぐり、海外コミュニティでは誤解とともに一騒動が起きていました。
「最終サークルの発生地点のデータ」の活用をめぐる議論
『エーペックスレジェンズ』のバトロワでは、ラウンドごとにサークルが収縮していくことで試合が展開していきます。新たに設定されたサークルが、自分たちにとって有利か不利か、常に考えを巡らせながら立ち回るのがバトロワルールの楽しさでもあります。
一方、このサークルの収縮はランダムではなく、ほとんど水辺だったり岩場だったりと、最終盤の戦場に向かない場所には最終サークルが出ないように制御されています。
「最終サークルが出ない場所がある」点については、元々データマイナー勢の一人であるShrigtalが、ストームポイントのマップを使って2022年の2月に紹介したことで知られるようになりました。こうした情報を活用し、少なくともどこに最終サークルが出るか、出ないかを事前に把握すれば、対戦で有利になれるだろう、というわけです。
プロチームも試合に活用?
問題は、こうしたデータを使うことが、対戦ゲームとして公正なのかという点です。プロの競技シーンでも、この「最終サークルが出ない場所」のデータを公式戦に用いることについて、Spacestation GamingのDropped選手のツイートをきっかけに一騒動起きていました。
(サークルが収縮する)ゾーンのデータマイニングがエーペックス界にはあると思いますが、これはもっと話されるべきことで、みんなにとって周知の知識になるべきだと思います。やり方としては、基本的にはアップデートのたびにゲーム内のコードを通じて、特定のゾーンが発生するか、しないかを知ることができるんです。
こういうものがあることすら知らないチーム以外には、こうした情報にアクセスできるのは大きく有利になります。ゲーム内コードを通じて何が得られるのか、何が得られないのかについて、考えを聞かせてください。またJayBiebsや開発者の方々からの考えも聞かせてほしいです。
「プロチームはゾーンのデータマイニングをしているという」話を怪訝に思った人々は、プロ選手たちにメンションを飛ばすと共に、プロ選手たちもリプ欄に集まってそれぞれコメントを寄せ始めました。
このときFURIAのHisWattson選手から名前が出てきたのが、TSMのコーチRaven氏でした。いわく、Raven氏はどこでサークルが収縮するかを示すマップを30分以内に作ることができ、それは98%以上の精度だったとのことです。
不正行為にあたるのか
Raven氏はNRGのsweetdreams選手の配信に入った際に、「それが競技の完全性を損なうとは思えない」、「ルールにはまったく違反していない」と発言し、サークル収縮データの試合への利用を間接的に認めていました。対してsweetdreams選手は、データマイニングは明らかにEAの規約に違反しているとして彼を非難しました。
TSMと言えばImperialHal選手も所属する北米の人気チームの1つですが、彼らは不正行為をしていたのでしょうか。
「もしTSMがALGSからBANされたら、先週の6試合目でヒューズのアルティメットでやられた件で最低でも5ポイントは欲しいね」というMPSのImMadness選手のツイートに対し、Hal選手は以下のように発言し、さらなる物議を醸していました。
「彼ら(運営側は)AllianceやFuria、FaZe、あと多分LiquidもBANしないといけないね。がんばれよ!」
それは「データマイニング」ではない?
実際のところ、すべてのTwitterやTwitch上のやりとりで、マイニングしたデータを競技シーンに活用しているという証拠は、まだどこのチームからも出ていません。
その一方で、プロ選手や競技シーン関係者、コミュニティの人々が使っている「データマイニング」という表現はそもそも誤解を招くものである旨を、企業のデータサイエンティストをしているというu/Diet_Fanta氏が、Redditでの議論の中で半ば呆れた様子で解説しています。
「これ(今回の騒動)は、EAのユーザー契約の文脈におけるデータマイニングとは何か、あるいはデータマイニングが一般的に何であるかを理解していない人たちによる、私がこれまで見た中で最も無益なものです。」
Diet_Fanta氏いわく、今回の文脈で問題視されている「データマイニングを試合に活用する」とは、技術的には「EAのサーバーに不正なアクセスをかけてサークル収縮に関わる内部コードを抽出すること」を意味し、言うまでも無くルール違反で、犯罪にあたる可能性さえあります。
しかし、TSMのRaven氏らの言う「データマイニングを試合に活用する」とは、サーバーからクライアント側に送られてくるデータ。つまり数多くの試合でどこに最終サークルが出現したかという膨大な記録を収集して分析するという意味で使っているようです。
「sweetdreams選手の元には、80%の確率で機能するサークル収縮地点予測手法を編み出したアナリストがいるんです。どうして80%の確率で成功すると言えるのか?それは、Ravenが自分のデータを使って自分の手法をバックテストしたように、彼がクライアントから集めたデータでバックテストを行ったからです。
Ravenが行っているのは、データ収集とデータ分析です。Respawn社の定義では、データマイニングは行われていません」
では、話の発端になったSSGのDropped選手の言う「アップデートのたびにゲーム内のコードを通じて、特定のゾーンが発生するか、しないかを知ることができる」とは、何のことなのでしょうか。
これについてDiet_Fanta氏が言うには、確かに自分のゲームファイルからデータを抽出するだけなら簡単だそうですが、Dropped選手が見ているのは、あくまでサーバーからクライアントに届いたデータに過ぎないそうです。ヒントのような断片的なもので、それだけでサークル収縮ルールの全体像が掴めるわけではないことが分かります。
「そのデータは全く役に立ちません。これ(エーペックス)はマルチプレイヤー用のゲームなので、クライアント側にあるデータファイルは、公開されていない大量のコードを持つサーバーと相互作用しています。その相互作用を通じて、各試合のサークル収縮方法が決まり、各試合の出現アイテムが決まる、といった具合です。
基本的に、これらを決定するコードはそこ(サーバー)に保存されています。もしサーバー側にアクセスし、それを理解することができたとしたら、その人はこのゲームで最も知識があり、まさに文字通り『ゲームを理解した』ことになるでしょう。
私は99.9999999%の確信を持って言いますが、競技シーンでは(実際の開発者以外は)誰もサーバー側のファイルにアクセスできません」
結局「アリ」か「ナシ」か...判断するのはEA側
まとめると、「クライアント側で手に入るデータを収集・分析して最終サークルの地点を予測できるようにし、その情報をプロ競技シーンで活用するのは(ルール的に)アリかナシか」というのが正確な論点だったことが分かります。データマイニングという言葉の使われ方が曖昧だっために、「プロチームはゲームサーバーにハッキングをかけてデータを抜いている」と誤解した方もいたようで、プロ同士でも、どこを問題視しているのか傍目にもよく分からない有様になっていました。
sweetdreams選手は途中で「おい、それはデータマイニングじゃないだろ?」と、話が混乱し始めていることに気付いていたようですが、人々の会話はそのまま、どのプロチームがBANされるのかといった話にまで飛躍していったことが、リプ欄からも察せられます。
とはいえ、サーバーから送られてくるデータを収集したり分析したりする過程で、どのような手法・ツールを用いているのかによって、EAのユーザー契約に定められた不正性の有無も変わりそうです。最終的にその線引きをするのはEAですが、EAおよび関係者は今のところコメントを発していません。
ルール上の是非は、今回名前の出てきたチームや選手がBANされるか、何らかのペナルティを受けるか、あるいは何も起きないかで定まるでしょう。果たしてサーバー(から送られてくる)データを収集することは、チームスタッフの努力の証と見てもらえるのか、それとも「やりすぎ」なのか、今後気になるところです。
Source: Twitter, Reddit
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