2006年発売の同名ホラー小説を元にした、『L4D』ライクな4人協力プレイ対応のTPS『WORLD WAR Z(ワールド・ウォーZ)』が4月16日にPC、PS4、Xbox One向けに発売された。ゾンビはびこる終末世界を協力して切り抜けていくというゲームは『L4D』の後にもいくつも出てきたが、今作の魅力はなんと言ってもゾンビのボリューム!高所なら安全だろうとたかをくくっているプレイヤーに組体操まで使って迫りくる、そんなかつてないゴリ押しの物量作戦を挑んでくる新作ゲームを紹介していきたい。
現時点では日本語未対応ということもあり、後日に別記事で各システムの解説や初心者向けのTipsも用意するので、国内ユーザーのプレイの一助となれば幸いだ。
「L4Dクローン」というジャンル
冒頭でも軽く触れたが、『Left 4 Dead』という2008年のFPSゲームがある。当時FPSを嗜んでいたプレイヤーならば少なくとも名前ぐらいは聞いたことがあり、各メディアの高評価を総なめした超名作かつ、度重なるセールで2~300円で買えるというその手軽さからSteamユーザーなら誰しもが一度は手にとった事があるという伝説的な作品だ。
で、どうして唐突にそんな別ゲーの話をしだすかというと、『WORLD WAR Z』のような、スタートからゴールまで大量のゾンビをさばきつつ攻略していくスタイルのシューターゲームの始祖が『L4D』(と2009年発売の続編『L4D2』、本文では両作を一緒くたにして扱う)で、その革新性たるや後続作品が全て「L4Dクローン」とジャンル分けされるようになったほどだ。最近の作品だと「敵がゾンビからエイリアンになっただけでなんの面白みもない」とやや厳し目の評価が目立つ『Earthfall』に、「中世ファンタジー世界で近接戦闘がメインの、数百時間遊んでもまだまだ上達できる高難易度と奥深さ」が評価されている『Vermintide 2』といったラインナップがある。それらの他にも実に様々な特徴を持った作品がこのジャンルには揃っているが、その全てには以下のような共通点がある:
- シューターゲーム(TPSあるいはFPS)
- スタート地点からゴール地点までたどり着ければ勝ち
- それぞれ性能の違う武器が数種類用意されている
- 道中に回復薬や道具、弾薬がランダムで配置される
- 大量の雑魚敵が湧き出てくる
- 特殊能力を持った敵やエリートに、強大なボスもたまに湧いてくる
- 協力プレイ機能
- 難易度変更機能
裏を返せば以上の特徴さえ揃えばそれは「L4Dクローン」ゲームで、『WORLD WAR Z』もこのジャンルに当てはまることとなる。とは言え、本当にクローンを作ってしまったならそれはただのパクリであり、しかも『L4D』自体2008年発売の一見シンプルなゲームながら、AIなどの目の見えない部分全てがValve社の高い開発力の精髄であってパクリたくてもパクれるものでは無いのだ。事実、今に至るまで『L4D』を超えたとされるクローン作品は未だ生まれていない。しかも肝心の『L4D』製作陣自体はCO-OPには興味がなく『Evolve』のような非対称型対戦ゲームにこだわっていたのがなんとも言えない話ではあるが。
閑話休題。もちろん「L4Dクローン」ジャンルに挑戦するゲームは『L4D』の模倣から入り、『L4D』を超えるために独自の要素を足していくことになる。
100体単位で襲いかかるゾンビの海
それでは『WORLD WAR Z』の最もユニークなシステムから見ていこう、その名は「Swarm(スウォーム / 群れ という意味)」で、これは例えばステージの途中にゲートが開くまでアラームが鳴り響く最中に無限湧きするゾンビの群れのことだ。なんだ、それなら『L4D』における「クレッシェンドイベント」のゾンビラッシュと同じじゃないか!と言いたい所だが、スケールが違う。こちらは文字通り、ゾンビの雨が降り、ゾンビの洪水が襲ってくるのだ。
これは本当にすごい。なぜすごいかと言うと、『L4D』のコンソールコマンドをいじくり回したことのある人なら少なくとも一度は「z_common_limit」コマンドでゾンビの出現量を増やしてみようと試した事はあると思うのだが、この「ゾンビの最大出現数を30体に制限してある」設定を少しでも増やすと劇的にゲームが重くなる。私が最後に試したのが2018年時点で、発売から10年近く経った時代のPCを使っても出現数を100にしたらもうカクつきすぎてまともに遊べなくなる。そう、元祖『L4D』は実はそんなにゾンビの数が多いわけではないのだ! とは言え、同時出現数30体という制限であんなにラッシュ感を出しているValve社のゲーム開発力がここでも際立ってくることになる。
では『WORLD WAR Z』のゾンビ数を見てみよう。
余裕で200体以上は出て来る。群れになっているゾンビに正面からロケットランチャーを叩き込んだら、スコアボードのキル数が100増えた上に依然衰えないラッシュに呑み込まれてゲームオーバーになったので間違いない。『WORLD WAR Z』の『L4D』と比べて明確に優れている所はここだろう。ゾンビシューターが一番重視する「数」の部分において、『WORLD WAR Z』は随一の物量を容赦なくプレイヤーにぶつけてくる。そしてその物量を存分に活かしたシステムも作り上げている。例えば、数百体の暴走ゾンビなんて地の利さえ得れば楽勝だな!と思い込むサバイバー達を最初のステージでゾンビと絶望の海に叩き落とす光景がこちらだ:
もちろんこの山は崩す事が出来る、というか崩さないとこちらが襲われて死んでしまう。小学校の組体操のとき、「もしここでみんな崩れたら…」と思ったことはないだろうか?実際に崩してみたいと思ったことは?誰しも一度はあると思うのだが、このゲームでは念願叶って銃弾にグレネード、対物ライフルやロケットランチャーなど、ありとあらゆる攻撃をぶつけて叩き壊すことができる。
これだけではなくて、他にも、Swarmの迎撃時にのみ設置することのできる防衛設備、雑魚ゾンビだけでも周りに8体以上いたら自動的に押し倒されるシステムなど、Swarmは紛れもなく今作の最もコアな要素だろう。
アップグレード可能な6種類のクラスと27種類の銃火器
Swarmの次に大きな特徴は「クラス」と「武器」の「アップグレード」だろう。まず、このゲームのプレイヤーは毎回プレイする前に6つのクラスから好きなものを一つ選ぶことができて、クラスは使っていくと経験値を獲得し、レベルアップしていく。レベルが上がれば、プレイヤーはゲーム内で稼げるお金を利用してスキルを習得することができる。
それぞれのクラスは使用できるグレネード(装備)、スタート時の武装が違い、またそれぞれユニークなスキルツリーを持っている。例を出すと、ガンファイトに特化したGunslinger(ガンスリンガー)というクラスはフラググレネードとSMGでスタートし、パッシブ効果で移動時の射撃に精度ペナルティを受けなくなる。レベルが上がるとさらに近くの特殊ゾンビを壁越しにマークしたり、キルストリークを重ねると味方全員のダメージにボーナスを与える事ができるようになる。
たが全てのスキルを選択できるわけではなく、プレイヤーは3の倍数ごとにスキルを一つ選択しなくてはいけない。1~3レベルのスキルから一つ、4~6レベルのスキルから一つ、7~9レベルのスキルから一つ…といった具合だ。このビルド要素が面白くて、それぞれ効果が噛み合うスキルを組み合わせてみたり、味方の編成によって少しスキルを変えてみたりと、中々良いリプレイ要素になっている。
そして武器にも同じく、レベルアップと強化要素がついている。武器は敵を倒すたびに経験値を入手できて、ランクが上がったらアップグレードを購入する事ができるようになる。購入すれば、以降自分がゲーム内で拾うその武器は全てアップグレードされたものとなる。
貫通力や威力、精度などがだんだんと強化されていくのが楽しい。中毒性があるゲームというのはプレイヤーに「あともう一戦だけ…もう一戦だけ…」と思わせ続けるのが上手で、『WORLD WAR Z』もそれに該当する。毎回良い感じに経験値やお金が収まるので、あと一戦やればレベルが上がる…や、あと一戦やれば武器のアップグレードが買える…という思考に陥りやすい。高い自制心が求められる恐ろしいゲームだ。
おまけの対人要素
CO-OPでゾンビたちを相手にするのに飽きたのなら、対人戦のPvPモードも試してみるべきだろう。
チームデスマッチやキング・オブ・ザ・ヒル、ドミネーションなど、この類のTPSにありがちなルールばかりだが、面白いことにここでもSwarmが絡んでくる。試合中にプレイヤーが出した騒音が一定度合いまで貯まると、なんと敵味方双方を容赦なく飲み込んでいくゾンビラッシュが発生するのだ!
ゾンビアポカリプスという設定を上手い具合にはめこんでいるのは素直に楽しい。ただ残念なのは、率直に言うと本作のPvPは穴が多いという点だ。武器のバランスは上手く練られているとは言い難いし、ランダム拡散や当たり判定にマッチングエリアの杜撰さによる不安定な通信、理不尽なリスポーン位置、説明不足で初見では分かりづらい仕様などなど、かなり欠点が目立つ。なにせある程度近距離だとショットガンよりもナイフを振る方が強いのだ。まぁ慣れてきたら気にならない部分だし、あくまでも「おまけモード」として楽しむのが一番だろう。
ちなみに『アンチャーテッド』の対戦プレイもメジャーではなく「強武器取ったもん勝ち」みたいなバランスだったが、個人的には味付けが大好きで、好調時は世界トップレベルだったのではと思うほどだ。そんな「なんだか楽しい」という独特の魅力にうまくハマれば長らく楽しめるかもしれない。
価格にしては楽しめる、丁度良い具合の「L4Dクローン」
自分が感じた本作の魅力を紹介したつもりだが、どうだろう、面白そうに見えただろうか。
ぶっちゃけてしまうと、本作は『L4D』には劣る。いや、本作だけではなく、先に書いた通り「L4Dクローン」群が本家を完全に超えた作品は一つも存在していないのだ。そもそも本家が強すぎる。サウンドの信頼性やプレイヤーの視界範囲の把握とゾンビスポーンの自然さなどのわかりやすい部分だけでなく、わざわざ心理学者まで雇って「プレイヤーの手の発汗量や脳波、アイトラッキングまで計測して生理学的に緊張度を計算」し、その研究を元に「プレイヤーの被ダメージや移動速度、行動やキル速度にキル数」などに応じてプレイヤーの「緊張度」を判断し敵や物資を沸かせるAIディレクターを開発するほど、目に見えない細部にこだわって産み出されたゲームが『L4D』だ。
「特定のアミノ酸を脳が美味いと感じるからそれだけ抽出してうま味調味料を作ったよ」とも言わんばかりの技術の暴力で当時のゲーマーたちの脳を揺さぶり数百、数千時間も虜にした大魔王を超える作品がポンポン湧き出てきてもいちゲーマーとしては困る。とても困る。生活を犠牲にせざるを得なくなってしまう。
もちろん、その評価には10年熟成した思い出補正もあるのだろう。その色眼鏡を抜いて『WORLD WAR Z』単体を眺めてみれば、これは中々に面白いゲームだ。CO-OPのTPSゲームとしての楽しさは充分捉えており、ゾンビサバイバル物の緊張感や大量のゾンビを様々な道具で処理していく爽快感もバッチリ。成長して自分が強くなっていく感触や、スキルビルドの楽しみもついてきて、おまけのPvPモードも良いアクセントだ。
そして価格も約4,000円と比較的お得で、このお値段でこれだけ遊べるなら納得できる、という良い場所に落ちついている作品だ。一緒に遊ぼうと誘う友人がいて、PvEのTPSが好きならば充分に元は取れるだろう。この類のゲームは人が多い頃が一番の旬なので、今週や来週あたりの週末は、ちょっとゾンビでも狩ってすごそうじゃないか。
World War Z - Launch Trailer
『WORLD WAR Z』の海外発売日は2019年4月16日で、対象機種はPlayStation 4、Xbox One、PC(Epic Games Store)。
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コメント
コメント一覧 (8件)
この手のゲームで日本語版がないとプレイできない連中は
義務教育うけてないのか?w
北米版ソフトを買い占めるテンバイヤーって相当の猛者だろう。
俺は普通にAmazon.comから買うぜ
ぶっちゃけ、L4D新作でないからクローンでも何でもいい
ここや他のレビューサイトでじわじわ評価されてるからかもしれんけど、転売屋に買い占められてどの販売サイトも高騰しとるわ
組体操を倒そうと思ったことはないわw
レビューは参考になった。
なんか知らんけど珍しくしっかり記事書いてんじゃん。
日本語化してなくても購入している日本人はたくさんいる。
どういう評価がされているか気になるプレイヤーも多いのでかなり参考になるレビューですね。
日本語販売になってからとりあげろ